手術部位感染が起きてしまうと、創部を切開排膿し洗浄するなどの処置が必要になったり、場合によっては再手術になってしまうなど入院期間の延長につながってしまいます。
今回は…
- 手術部位感染(SSI)とリスク因子と対策
- 手術部位感染の観察ポイント
について解説していきたいと思います。
手術部位感染とは?
手術部位感染(SSI)は、主に術中の細菌汚染によって手術部位に感染が生じてしまった状態
皮膚や皮下組織に及ぶ感染
=表層切開創SSI
筋膜や筋層内に及ぶ感染
=深部切開創SSI
手術を行なった臓器や腹腔内に及ぶ感染
=臓器/体腔SSI
このように3つに分類されます。
基本的には消化管内細菌や皮膚常在菌などの菌が創部に付着して起きますが、脂肪融解や縫合糸が原因となることもあります。
手術って無菌じゃないの?
手術時に消毒を十分に行なったとしても、100%菌がいなくなるわけではなく、皮下組織や汗腺、皮脂腺などにも細菌は存在するし、手術室の空気中にも存在します。
つまり、どれだけ万全にしたとしても術野には少なからず細菌がいると思ったほうが正しいでしょう。
そのため、手術部位が汚染されても患者さん自身の防御機能で十分にコントロールできるよう、術前から予防的抗菌薬(AMP)を投与します。
手術部位感染のリスク因子
術前からのリスク因子
高齢・栄養状態・喫煙・肥満・糖尿病・ASA-PS・ステロイド投与・剃毛
高齢(65歳以上)であると感染に対する抵抗力の低下により、SSIの発生頻度が高くなると言われています。
ただ…年齢に関しては対策が不可能
栄養障害はSSIの発生リスクが高くなります
- BMIが17.0以下
- アルブミン3.0以下
このような場合は、術前からNSTに依頼して栄養管理を行っていく必要がある。
ニコチンは血管を収縮させて酸素の供給を減少させるため、創治癒に悪影響をもたらします。
とにかく禁煙
肥満により皮下脂肪が多いと脂肪融解壊死を起こしやすくなるため、できればダイエット。
血糖コントロールが悪いと術後感染症を起しやすい
術前:空腹時血糖140mg/dl以下
食後2時間200mg/dl以下
術後:血糖140~180mg/dl
術前から血糖コントロールが重要であり、基本的な食事療法やインスリン強化療法を行う事もあります。
長期的にステロイドを投与している場合は感染の危険因子になります
ASA-PSとは、術前に患者さんの身体状態を把握するための分類
class1 | 普通の健康な状態 |
---|---|
class2 | 日常生活に支障をきたさないが、軽度の全身疾患がある |
class3 | 日常生活に制限が必要な重度の全身疾患がある |
class4 | 生命を脅かす程度の全身疾患がある |
class5 | 手術をしなければ生存不可能な状態 |
class6 | 臓器移植の予定のある脳死状態 |
ASAが3以上であるとSSIの発症リスクが高くなると言われています。
例:COPDやコントロール不良の糖尿病、3ヵ月以上経過した心筋梗塞や脳血管障害など…
剃毛は、皮膚に細かい傷や出血が起きるため細菌が増殖しやすくなる。そのため、クリッパーによる除毛が推奨されていますが、必要ないなら除毛もしないのが理想。
手術による因子
手術時間・消毒法・手術時の手洗い・低酸素・低体温・間違った予防的抗菌薬の選択や投与・手術創の清潔度
<手術時間>
手術時間が長くなるとSSI発症のリスクが高くなると言われています。
消毒が不十分だと問題になるのは言うまでもないですよね。
術野の消毒に適切なものを選択しますが、アルコール含有製剤の使用が推奨されているそうです。
また、汚れが付着していると消毒が不十分になるため、術前のシャワー浴や臍処置も重要な役割となります。
手術操作により滅菌手袋に目に見えないのような小さな穴があいてしまっても、それでも細菌は通過してしまいます。
手洗いが不十分=術野の汚染リスクになります。
低酸素により末梢循環不全をきたすことでSSI発症リスクがあると言われています。
明確なエビデンスはないが、ガイドラインでは術後は2〜6時間くらい酸素投与を行うことを推奨しています。
周手術期の低体温は、好中球やマクロファージの免疫機能が低下し創部治癒の遅延にも繋がってしまいます。
術後の低体温を予防するためにも保温が大切です。
<間違った予防的抗菌薬の選択や投与>
細菌の増殖を抑えるためには、適切な予防的抗菌薬の選択や投与するタイミングが重要です。
投与するタイミングは執刀開始の1時間以内に投与と覚えておきましょう。
関連記事<手術創の清潔度>
創クラス分類
クラス1 (清潔創) |
・感染や炎症がない ・呼吸器、消化器、生殖器、泌尿器系手術ではない ・一次縫合された創 など… |
---|---|
クラス2 (準清潔創) |
・管理下で行われる呼吸器、消化器、泌尿器、生殖器手術 ・異常な汚染がない創 など… |
クラス3 (不潔創) |
・早期の穿通性外傷 ・早期の開放骨折 ・術中に消化器系から大量の内容物の漏れ など… |
クラス4 (汚染・感染創) |
・感染を伴う創 ・壊死組織の残存する創 ・消化管穿孔 など… |
手術創の分類でⅢ以上はリスクとなり、クラス4では創感染率が約40%と言われています。
例えば、大腸の穿孔で腹腔内に便が多量に漏れるとひどく汚染されるので、術後創感染のリスクが高くなります。
<術式>
厚生労働省の院内感染対策サーベイランス。2021年1月〜術式別のSSI発生率によると…
膵頭十二指腸切除術 20.2% 食道切除術 15.1% 小腸手術 12.0% 直腸手術 9.1% 虫垂切除術 4.4% 胸部大動脈の手術 3.2% 腹部大動脈手術 2.5% 人工関節置換術 0.7% 脳室シャント 1.8% |
消化器外科の術後は圧倒的にSSIが発症しやすいことになります。
手術部位感染の観察ポイント
<身体的所見>
発熱、発赤、腫脹、熱感、疼痛、創部からの膿性排液、ドレーン排液の混濁や異臭
<採血>
WBC、CRPの上昇
表層切開創SSI
表層切開創SSIは、術後数日経過してから創部の周囲に発赤がみられることが多く、一部切開すると白く濁ったような膿性の排液がみられます。
脂っぽい排液の脂肪融解と区別がつきにくい。
感染をコントロールし治癒を促すために、一部切開し生理食塩液かシャワーで毎日洗浄をします。
深部切開創SSI
深部まで感染が及んでいるということは傷全体が感染していることです。
閉腹の際って筋膜を縫合してきますが、感染が深部に及んでいると筋膜自体が溶けてしまい、縫合糸のみしか残ってないこともあったりします。
大腸穿孔で腹膜炎を併発した場合などの術後に起きたりしやすい。
創部から膿性の排液がみられるので、感染のコントロールをするため創洗浄を行います。
臓器/体腔SSI
ドレーンからの排液が混濁して異臭がするようであれば、臓器/体腔SSIが考えられますのでドレーン管理が大切です。
絶対に抜けたり抜かれたりしないように死守。
また、術後に腹腔内膿瘍を起こすことがあり、これも臓器/体腔SSI。
ドレーン抜去もして順調だったのに術後1週間くらいに急な発熱や炎症反応の上昇が起きるため注意が必要です。
まとめ
手術部位感染は基本的に術中の細菌汚染が原因となって起きます。
看護師としてSSI発症リスクを軽減させるためには、リスク因子を把握して予防介入を行うこと。そして、術後はSSIの早期発見をすることが重要な役割になります。
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