消化器手術の術後は腹腔内にドレーンを留置してくることが多く、排液の性状を観察することはとても重要。
しかし…当たり前だけど正常がわかっていないと異常もわかりません。
ということで、今回は腹腔ドレーンの排液の正常とは?異常ってどんな色?について解説していきたいと思います。
Contents
正常な腹腔ドレーンの排液
術後に挿入されてくるドレーン排液は、出血による血液成分や滲出液、腹腔内を洗浄した生理食塩液などです。
術直後は血液が少し薄まったような淡血性ですが、経過に問題がなければ徐々に血液成分が減少し滲出液の性状である淡黄色(漿液性)に変化していきます。
つまり、術後のドレーン排液は「淡血性→淡々血性→漿液性」と変化し排液量も減少していくことが正常な経過です
手術内容によってことなるが、術後2〜3日目まで淡血性が続くこともあるし、術後1日目には漿液性に変化することもあります。
異常な腹腔ドレーンの排液
正常なドレーンの排液の変化から逸脱すれば、それが異常ということになります。また、手術部位や術式によっても漏れるものが違うため覚えておく必要があります。
色だけじゃなく、匂いや粘稠度、排液の量を観察することが重要
①排液が血性
排液が血性に変化し持続していれば腹腔内で再出血している可能性があります。
大事なのは「どのくらいの時間」で「どのくらいでているのか」
- 3時間で50mlの血性排液
- 30分で200mlの血性排液
どちらが緊急性が高いかというと、もちろん後者です。1時間で100ml以上の血性排液があれば術後出血を疑うと言われています。
あまり違いがわからいような…
*どの手術で起きる?
すべての手術において起こるリスクがありますが、肝臓や膵臓の手術は特に注意が必要
*対応は?
バイタルサインを測定して主治医に報告です。出血性ショックが起きていないか頻回にモニタリングしましょう。
②排液が濃黄色
濃い黄色や黄土色に排液が変化したら胆汁の漏出が疑われます。
パッと見たとき漿液性では?と思われやすいですが、胆汁はドロッとして粘稠度があるのが特徴ですので、排液を出して観察すればわかります。
*どの手術で起きる?
肝臓切除や胆道再建術、膵頭十二指腸切除術、胆嚢摘出術(リスクは低い)
*対応は?
バイタルサインをチェックし腹部症状も観察して医師に報告しましょう。食事が開始されていれば禁食になります。
ドレナージができていれば保存的になることもありますが、胆汁性腹膜炎を起こす可能性があるので注意
③排液が便汁様
ドレーンからの排液が便汁様に変化した場合は下部消化管の縫合不全が考えられます。
明らかに便のような茶色や混濁した黄土色に変化するのでわかりやすく、便臭がするのも特徴の一つです。
*どの手術で起きる?
結腸の手術。特に、直腸の手術(低位前方切除や超低位前方切除術)はリスクが高い。
*対応は?
バイタルサインと腹膜炎症状をチェックして、早急に主治医へ報告しましょう。
症状が軽ければ禁飲食にして保存的に経過を見るか、一時的に人工肛門造設術をすることもあります。
④排液が暗赤色(ワインレッド)
ドレーンの排液が暗赤色(ワインレッド)に変化した場合は膵液瘻が考えられます。
もともと膵液は無色透明ですが、血液成分と混じることでワインレッド、赤ワインのような特徴的な色になります。
ドレーン排液のアミラーゼ値を測定することで、膵液が漏れているかどうかの判断材料にもなります。
*どの手術で起きる?
膵臓、胃切除の手術
*対応は?
バイタルサインをチェックして主治医に報告しましょう。きっと、ドレーンアミラーゼを検査するように言われるはずです。
膵液瘻になっても、基本的には経過を観察し治まるのを待ちますが、仮性動脈瘤形成しそれが破裂することによる大量出血に注意しなければなりません。
私も一度だけ経験したことがありますが、動脈塞栓術(TAE)を行って止血したりします。
そのため、ドレーンの排液の変化に注意
大出血の前兆として、排液が少し血性に変化する(おしるし)ことがあるので、その変化を見逃さないようにすることが重要です。
また、膵液瘻が起きると腹腔内膿瘍も起きやすくなりますので、性状の観察と同等にドレーンが抜けないように管理することも大切です。
⑤排液が膿性
クリーム色や灰白色のように混濁し変化した場合は、腹腔内感染による膿瘍形成が疑われます
異臭もするのが特徴で、病室内にも臭いが充満することもあるくらいです。
*どの手術で起きる?
穿孔性虫垂炎や消化管穿孔などの術後では早期から
縫合不全や膵液瘻などによる腹腔内感染であれば術後数日から
*対応は?
バイタルサインや腹部症状をチェックして主治医に報告しましょう。
ドレナージできていることが重要なので、ドレーン管理とともに腹膜炎の症状にも注意して観察していきます。
基本的に長期戦になることが多いです
⑥排液が乳白色
食事開始後に排液が乳白色に変化したら乳び漏を疑います。
乳び漏は、手術によって損傷したリンパ管から食事の時に摂取した脂肪分がリンパ液とともに漏れてしまう現象です。
排液量も多くなり、1日1000ml以上でることもあります。
*どんな手術で起きる?
癌の手術によるリンパ節郭清を行った場合など
*対応は?
緊急性はありません。主治医に報告し、絶食にして点滴を行うか脂肪制限の食事に変更します。
これは異常なのか考えてみよう
漿液性から淡血性に変化
これは、ドレナージできずに死腔内に溜まっていた血液成分が、体位変換や歩行などによって流れてきたため一時的に性状が変化していることが考えられます。
術後出血は48時間以内に起こるとされているので、術後5日目ということを考えると出血の可能性は低いと言えます。
ただし、膵液が漏れている場合は遅発性の出血があるので、血性に性状が変化しないかを観察していく必要はあります。
排液量が多い
排液量は術後早期が最も多く300〜400mlでることもありますし、100ml以下の場合もあります。
穿孔性腹膜炎など腹腔内が汚染されているような状況では、多量の生理食塩液で洗浄してくるので術後は排液が多くなりやすいです。また、肝硬変により腹水が貯留している場合も多くなります。
排液量は経過とともに減少していくので、排液性状に問題なければ経過観察。
ただ、上記で伝えたように乳白色に変化するようであれば異常ということです。
排液量が急に減った
性状に問題なければ緊急はありませんが、膿性や胆汁、便汁などがドレナージされていたにもかかわらず急に出なくなった場合は早急に報告する必要があります。
まとめ
ドレーン排液の異常を知るためには、まず正常を理解しなくてはなりません。
また、手術部位や術式によって異常となる排液の予測もつきます。
「あれ、なんか色が変…もしかして…」
このように敏感になり、色だけでなく量、匂い、粘稠度も一緒に観察することが重要です。
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