消化器手術では術式によって様々な部位に腹腔ドレーンを留置してきます。
腹腔ドレーンが挿入されていても、そこがどの部位なのか?なぜそこに留置しているのか?看護師は理解しておく必要があります。
ということで、今回は腹腔ドレーンの術式別の挿入部位や目的について解説していきたいと思います。
主な腹腔ドレーンの挿入部位
肝臓の右葉と右横隔膜の間。仰臥位のときに最も深くなる位置
脾臓と左横隔膜の間。仰臥位のときに最も深くなる位置
肝臓と右の腎臓の間のくぼみ
胃と肝臓の後ろ側にある網嚢という空間から腹膜腔に通じる隙間。体液が溜まりやすい位置
簡単に言うと胃と肝臓の背中側
上行結腸の外側
下行結腸の外側
直腸と子宮の間のくぼみ。腹腔内で最も低い部位
あとは、手術する部位によって留置する場所が異なってくるから覚えておこう。
術式別の挿入部位と目的
よくある消化器手術では、どのような目的でどの部位にドレーンが留置されるのか術式別に見ていきましょう。
胃切除または全摘術
*ドレーンを留置する目的
- 膵液瘻、縫合不全、術後出血のモニタリング
- 手術による出血や滲出液の貯留の予防
胃がんの手術では、膵上縁のリンパ節郭清による膵液瘻、消化管再建による縫合不全(食道空腸吻合が多い)、術後出血に注意が必要になります。
*留置する部位
ウィンスロー孔、膵上縁、左横隔膜下など。膵前面の場合もあります
肝臓切除術
*ドレーンを留置する目的
- 肝離断面からの出血や胆汁漏出のモニタリング
- 手術による出血や滲出液の貯留を予防
肝切除では、術後出血と切除した離断面や胆管処理に伴う胆汁漏を観察することが重要です。
*留置する部位
右肝切除→モニタリングのために肝離断面。液体貯留予防のために右横隔膜下
左肝切除→モニタリングのために肝離断面。液体貯留予防のためにウィンスロー孔
胆嚢切除術
*ドレーンを留置する目的
- 胆汁漏や術後出血のモニタリング
胆嚢切除術は、ドレーンを留置しない場合もありますが、強い炎症を起していたり胆嚢が壊疽しているような場合は胆汁瘻や腹腔内膿瘍を形成するリスクがあるので留置してきます。
*留置する部位
モリソン窩、胆嚢床などに留置
膵頭十二指腸切除術
*ドレーンを留置する目的
- 出血、膵液瘻、胆汁漏のモニタリング
- 消化管吻合部の減圧
膵頭十二指腸切除術は、膵臓・胆道・消化管の再建をするため複雑であり消化器外科の中でもトラブルの起きやすい手術です。
膵液や胆汁の漏れによる腹腔内膿瘍を合併しやすく、膵液漏れに伴う腹腔内出血により致命的になることもあるため、術後は多くのドレーンが留置されてきます。(トップクラスに多い)
*留置する部位
膵空腸吻合部(膵上縁)(膵下縁)→膵液瘻や出血のモニタリングと漏れた場合のドレナージ
胆管空腸吻合部→胆汁漏や出血のモニタリング。漏れた場合のドレナージ
膵管チューブ→膵液を体外に出すことにより膵空腸吻合部の減圧
胆管チューブ→胆汁を体外に出すことにより胆管空腸吻合部の減圧
虫垂切除術
*ドレーンを留置する目的
- 腹腔内の汚染された液体の溜まりを予防
- 膿瘍のドレナージ
虫垂炎手術の場合は基本的にドレーンは留置しません。
しかし、炎症が強く穿孔して腹膜炎を起こしている場合、腹腔内を多量に洗ってきても汚染された液体が多少なりとも溜まってしまいます。
それが感染の原因になるため、腹腔内の液体が溜まりやすい部位にドレーンを留置してきます。
*留置する部位
ダグラス窩、右傍結腸溝
通常はダグラス窩に挿入します。炎症が強い場合には右傍結腸溝にも挿入することがあります
結腸切除術
*ドレーンを留置する目的
- 術後出血、縫合不全のモニタリング
- 縫合不全が起きた場合のドレナージ
結腸切除術は、基本的に腸同士を繋げた吻合部近くにドレーンを留置して、術後出血や縫合不全による排液の異常を観察します。
どこの結腸を切除したかによって、留置する部位が変わってきます。
*留置する部位
右半結腸切除術→右傍結腸溝
左半結腸切除術→左傍結腸溝
S状結腸切除術→左傍結腸溝orダグラス窩
低位前方切除術
*ドレーンを留置する目的
- 術後出血、縫合不全のモニタリング
- 縫合不全が起きた場合のドレナージ
直腸の手術は、結腸の手術に比べて吻合部に負荷がかかりやすく縫合不全が起きるリスクが高くなります。
そのため、吻合部近くの溜まりやすいスペースにドレーンを留置します。
仮に、縫合不全によって便汁が漏れたとしても挿入しているドレーンによって有効なドレナージができれば保存的に経過をみることもできるので治療的な役割もはたします。
*留置する部位
ダグラス窩
まとめ
今回は術式別による腹腔ドレーンの挿入部位や目的について解説してみました。
実際には施設によって挿入する部位に多少の違いがあると思いますが、目的は同じです。
なぜそこに留置されているのか?それを理解することで異常を予測しながらドレーンの観察をすることができますので、しっかりと覚えておきましょう。
・腹腔ドレーン②排液について〜正常を知らなきゃ異常もわからない〜