術後の疼痛コントロールに使用されるIV-PCA(経静脈患者管理鎮痛法)とEpi(硬膜外鎮痛法)
このように漠然と違いがわかっていても、お互いの特徴を理解していない看護師さんは結構いるんですよね。
今回は、IV-PCAとEpiの違いや看護のポイントについて説明していきましょう。
Contents
IV-PCAとは?
IV-PCAとは「経静脈患者管理鎮痛法」といい、静脈から鎮痛薬を持続的に投与することで疼痛コントロールを図る方法です。
そして、IV-PCAは患者さん自身が痛みに応じて鎮痛薬を追加投与することができるボーラス投与という機能が備わっているのが大きな特徴です。
IV=経静脈
PCA=患者管理鎮法
じゃあ、自分が患者さんの立場だったとして考えてみよう。術後に鎮痛薬の持続投与していたけど痛みが強くなってきたらどうする?
じゃあ、看護師が病室に来てから痛みの評価をし鎮痛薬の追加投与の必要性があったら一旦ナースステーションに戻るでしょ?その時間どう思う?
このように、ナースコールで呼んでから鎮痛薬の投与までにどうしても時間がかかってしまいます。
そういったタイムロスをなくすことができるのがボーラス投与であり、患者さん自身が痛みを感じた時に自分のタイミングで投与することができるので速やかに鎮痛効果を得られるのがメリットなんです。
でも、ボタンを押しすぎて過剰投与になることはないんですか?
これをロックアウトと呼んでいます。
ロックアウトが60分であれば、ボタンを押してから60分経過するまでは押せません。
このように過剰投与を防止することができる機能も備わっています。
IV-PCAの適応と禁忌
IV-PCAは静脈から投与するため、ルートが確保されていれば基本的には誰にでも投与できます。
血液凝固異常や脊柱の変形によりEpiが使用できない場合などもIV-PCAなら使うことが可能になりますし、カテーテルを挿入する必要性がないというも大きなメリットと言えます。
ただ「PCAの取扱い方を理解できない患者さん」や「鎮静下で管理する場合」は対象とはされていないそうです。
まぁ、私の病院では自分でボタン押せるかな?と微妙な患者さんの場合もIV-PCAを使っていますけどね…
IV-PCAに使用される薬剤
IV-PCAでは基本的にオピオイド単独で使用します
(主に使用するオピオイド)
・モルヒネ
・フェンタニル
それは、オピオイドの副作用を予防するためにだよ
副作用のところでも説明しますが、オピオイドの副作用で多くみられる嘔気・嘔吐をあらかじめ予防するために、ドロレプタンを少量混ぜることがあります。
私の病院での使用例
・フェンタニル14ml
・ドロレプタン2ml
・生食84ml
2.1ml/hで持続投与しボーラス2mlのロックアウト60分。
こんな感じで投与します。
ドロレプタンは錐体外路症状が出現することあるため注意!
IV-PCAによる副作用
IV-PCAはオピオイドによる副作用に注意しなければなりません。
・便秘
・眠気
・呼吸抑制です
あとは掻痒感や排尿障害などもあるね
血中濃度が高くなるとそれだけ副作用のリスクも増すから、ボーラス投与が頻回な患者さんは特に注意が必要です。
IV-PCAによる代表的な副作用
悪心、嘔吐、便秘、眠気、呼吸抑制、排尿障害
IV-PCAの鎮痛効果は?
IV-PCAは体動時の鎮痛効果はEpiより劣るとされており、同じ投与量でも効く人と効きにくい人の個人差があると言われています。
ただ、これだけ聞くと微妙じゃんと思うかもしれませんが、これを補うためにボーラス投与が存在するのです。しかも、「痛くなったら使える」と自分のタイミングで鎮痛薬を投与できるのだから患者さんにとって精神的な効果も高いと言えます。
最近では末梢神経ブロックを行ってくることも多くなりました。
Epiとは?
Epiは「硬膜外鎮痛法」と言い、硬膜外腔にカテーテルを挿入して鎮痛薬を持続投与し疼痛コントロールをする方法です。
また、Epiにもボーラス投与ができる硬膜外患者管理鎮痛法(PCEA)もありますが、原理はIV-PCAと一緒です。
全身に作用するIV-PCAとは違い、脊髄神経の分節に応じた鎮痛作用をもたらすことができます。
手術部位 | 穿刺部位 | 目標麻酔域 |
胸部 | Th5~6 | Th1~10 |
上腹部(胃・肝臓・胆嚢) | Th7~9 | Th4~12 |
下腹部(大腸・ギネ系) | Th13~L1 | Th6~L3 |
鼠径(ヘルニア) | L1~L2 | Th10~S3 |
下肢(整形外科など) | L1~L3 | L1~S5 |
Epiの適応と禁忌
- 開胸手術
- 開腹手術
- 股関節や膝関節の置換術
など、主に安静時にも体動時にも疼痛が強い場合にEpiは使用されることが多い。
しかし、これらの術式であれば誰にでも投与できるというわけではありません。
- 患者さんが拒否した場合
- 穿刺部位に感染がある場合
- 頭蓋内圧が亢進している場合(脳ヘルニアの危険)
- 感染症、敗血症がある場合(髄膜炎のリスク)
- 出血や脱水で循環血液量が減少している(循環不全のリスク)
- 血液凝固異常がある(硬膜外血腫のリスク)
*PT-INRが1.5以上
*APTTが50秒以上
*血小板数が10万以下 - 抗凝固薬・抗血小板薬を手術日まで投与していたり、緊急のため規定通りの期間を休薬できていない(硬膜外血腫のリスク)
- 脊柱の変形(物理的に難しい)
このような理由でEpi(硬膜外鎮痛)ができない場合があります。
Epiで使用する薬剤は?
Epiで使用する薬剤は局所麻酔薬の単独、もしくはオピオイドと局所麻酔薬の併用が多いです。
<主に使用する局所麻酔薬>
・ポプスカイン
・アナペイン
局所麻酔薬は、交感神経遮断による血圧低下や知覚・運動神経の遮断による知覚や下肢の運動機能障害が起こりやすくなります。
投与量が多いと、これらの副作用のリスクが増すからできれば量を少なくしたい。でも、そうなると鎮痛効果が弱くなってしまう。
オピオイドを併用する理由は、副作用のリスクを減らすために局所麻酔薬の量を抑えても鎮痛効果を高めるために併用しているのです。
私の病院での使用例
・0.25%ポプスカイン200ml
・フェンタニル12ml
・ドロレプタン2ml
4ml/hで持続投与
こんな感じで投与しています。
Epiによる副作用は?
Epiに多い副作用は交感神経を遮断することによる血圧低下。これは結構多くて、術後に低血圧を起こしてEpiを減量したり中止することがあります。
あと、大切なのが下肢の知覚や運動障害が起きやすくなること。投与量が多いと、これらのリスクも高くなりますので注意が必要です。
Epiによる副作用
血圧低下、知覚・運動障害、悪心、嘔吐
Epiによる鎮痛効果は?
EpiはIV-PCAに比べて、体動時の鎮痛効果が高いと言われています。
体動時に痛みがあるということは、それだけ離床の妨げになってしまいます。特に、開腹や開胸手術などの侵襲の大きなopeであれば疼痛も強く合併症のリスクも高くなるので、Epiで疼痛をコントロールするのがベストなのでしょうね。
麻酔科医も消化器の開腹手術による術後の内臓痛にはやっぱりEpiが効くと言っていました。
IV-PCAとEpi投与中の看護のポイント
疼痛の評価
ポイントは「疼痛が自制内」であること。
- NRSやFRSを使用し疼痛の程度
- ボーラス投与の回数
これらをもとに、疼痛がコントロールできているかを評価しIV-PCAのベースを増やしたり、NSAIDsを併用したり医師の指示のもと対応しましょう。
術後の疼痛指示はあらかじめ決められていること多いと思いますが、その中によくある薬剤のペンタゾシン(ソセゴン)は、フェンタニルやモルヒネと拮抗作用があると言われています。
ソセゴンの指示がある場合は主治医に確認しましょう。
副作用の早期発見
オピオイドや局所麻酔薬ではどのような副作用がでやすいのかを理解し観察しましょう。
<IV-PCAの場合>
・嘔気、嘔吐
メトクロプラミドをIV。ダメなら主治医に報告しIV-PCAの中止などを検討
嘔吐時は顔を横に向け、できる範囲内で側臥位にし誤嚥を予防しましょう。胃管が挿入されていれば、カテーテルチップにて吸引することもあります。
・眠気
傾眠なのか、声をかけて覚醒するのか、覚醒しないのか、どのくらいの鎮静状態かを観察する
主治医に報告してIV-PCAの減量または中止を検討し、拮抗薬のナロキソンの投与。
・呼吸抑制
「呼吸回数が8~10以下」「SPO2が90%以下」になっていないか観察しましょう。
この場合、すぐに主治医に報告してIV-PCAの減量または中止を検討。ナロキソンの投与を行います。
<Epiの場合>
・血圧低下
術前の血圧と比べてどうかというのも大事だが、基本的に私は90mmHgを下回るようなら主治医に報告しています。血圧低下がある場合は、Epiの減量または中止して対応。
それよりも、本当にEpiの作用で血圧が下がっているのか、他に原因があるのかをアセスメントすることが大切です。
・下肢の知覚や運動障害
下肢のしびれ、下肢の脱力感、触覚や痛覚の有無を観察します。
経験上、頻度としては多くない印象です。この場合はすぐに医師に報告してEpiを減量または中止にします。
カテーテル管理
<IV-PCAのカテーテル管理>
- 接続の緩みや刺入部の漏れなど、ルートトラブルを確認。
- 適切に投与するため輸液ポンプが必要となる
- 単独だと閉塞するリスクがあるのでメインの点滴が必要
- 側菅より他の薬剤を投与する場合、もう1ヶ所ルートをキープする必要がある
- ポンプがベッドから落ちやすいので、点滴スタンドにぶら下げたり、袋に入れて首からぶら下げたりする。
- 指示通りの流量、残量を各勤務帯で確認
IV-PCAは、ルートの観察が容易だし、万が一漏れた時しても看護師サイドで刺し直しができるので安心感がありますね。
<Epiのカテーテル管理>
- カテーテルの長さが正しいか、抜けや屈曲、固定に問題がないか十分な観察をする
- 側臥位にならなければ観察できない。
- 指示通りの流量、残量を各勤務帯で確認。
- ポンプがベッドから落ちやすいので、袋に入れて首からぶら下げたりする。
IV-PCAに比べるとEpiは背中側にカテーテルがあるので、観察の際に患者さん自身も苦痛を伴うので大変です。
また、術後せん妄などによって自己抜去されないかヒヤヒヤするし、場合によっては行動制限しなくちゃいけなくなることもあるので管理としてはEpiの方が大変だと個人的に思います。
疼痛の評価・副作用の観察・カテーテル管理が看護のポイントってことですね
IV-PCAとEpiの違いをまとめると…
- 投与経路の確保が簡単
- 基本的に誰でも投与できる
- カテーテル管理がEpiに比べて楽
- 漏れても看護師サイドで再挿入できる安心感
- 患者さん自身が痛みに合わせて追加投与できる
- 患者さんの精神的効果
- 体動時の鎮痛効果が高い
- 呼吸器合併症のリスクが少ない
- 消化管機能の回復が早い
- 硬膜外患者管理鎮痛法(PCEA)もある
- 体動時の鎮痛効果が劣る
- 嘔気、嘔吐
- 呼吸抑制
- 過鎮静などの副作用
- 術後合併症のリスクが高くなる
- 誰でもできるわけではない
- 投与経路の確保が難しい
- 血圧低下が起きやすい
- 下肢の知覚、運動障害
- IV-PCAに比べてカテーテル管理が大変
あくまでも主観的な意見も入っていますが、IV-PCAとEpiの違いはこんな感じです。
疼痛コントロールの評価・副作用の早期発見・安全なカテーテル管理。これが、看護師にとって大事な役割になると思いますので、お互いの特徴をしっかりと理解しておきましょう。