DVT(深部静脈血栓症)は周手術期に起きやすい合併症で、主に下肢および骨盤の深部静脈に血栓ができます。
その血栓が遊離して肺動脈を閉塞すると致命的な肺塞栓症(PE)となるため、術前からの予防対策が重要です。
今回の内容は…
- 術後になぜDVTが起きやすいのか?
- DVTを起しやすい患者さんは?
- 術後の観察ポイントと予防対策
について解説していきたいと思います。
Contents
術後DVTの原因
すでに知っているかもしれないけど、術後になぜDVTが起きるのか?原因についておさらいしていきましょう。
血栓の形成にはVirchow(ウィルヒョウ)の3徴が関与しています。
- 血流のうっ滞
- 血管壁の損傷
- 凝固能の亢進
手術に当てはめてみると…
術中の長時間同一体位や術後の安静によってふくらはぎの筋ポンプが低下し血流のうっ滞を起こす。手術操作による血管壁の損傷や侵襲による凝固能の亢進が起きる。
そのため、術後はDVTを起こすリスクが高くなります。
術式によるDVTのリスク
<一般外科手術におけるDVTのリスク分類>
低リスク | 60歳未満の非大手術 40歳未満の大手術 |
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中リスク | 60歳以上、あるいは危険因子がある非大手術 40歳以上、あるいは危険因子がある大手術 |
高リスク | 40歳以上の癌の大手術 |
最高リスク | DVTの既往あるいは血栓性素因のある大手術 |
*大手術とは、すべての腹部手術あるいはその他の45分以上を要する手術が基本となり、麻酔法、出血量、輸血量、手術時間などを考慮して総合的に判断する
<整形外科手術におけるDVTリスク分類>
低リスク | 上肢の手術 |
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中リスク | 脊椎手術、骨盤・下肢の手術 |
高リスク | 股関節全置換術(THA) 膝関節全置換術(TKA) |
最高リスク | 高リスクの患者にDVTの既往や血栓性素因がある場合 |
<脳外科手術におけるDVTリスク分類>
低リスク | 非開頭手術 |
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中リスク | 脳腫瘍以外の開頭手術 |
高リスク | 脳腫瘍の開頭手術 |
最高リスク | 高リスクの患者にDVTの既往や血栓性素因がある場合 |
悪性腫瘍の手術や整形外科で特に人工関節の手術なんかはリスクが高いと言われています。
これに加えて下記の危険因子が加わればリスクが高くなります。
<危険因子>
肥満 エストロゲン治療 下肢静脈瘤
高齢 長期臥床 うっ血性心不全 呼吸不全 悪性疾患 CVカテーテル留置 ケモ 重症感染症 DVTの既往 血栓性素因 下肢麻痺 下肢のギブス固定や牽引 |
血栓性素因:アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、抗リン脂質抗体症候群
例えば…
35歳 女性 BMIは35 ピル内服中
胆石症にて腹腔鏡下胆嚢摘出術予定
この場合、年齢と術式だけなら低リスクだけど、肥満とエストロゲン治療の因子があるため中リスクになるということです
逆に…
70歳女性 変形性股関節症
全人工股関節置換術(THA)予定
この場合は、THA手術だけで高リスクであり、そこに高齢も加わるため最高リスクと同じ扱いになります
これってDVT?術後の観察ポイント
- 下肢の腫脹、疼痛、熱感
- 浮腫
- ふくらはぎの左右差
- ホーマンズ兆候
これらの症状があればDVTを疑ってDダイマーの測定や下肢エコーなどの検査して血栓の有無を確認します。
高リスクや最高リスクであれば症状がなくてもチェックすることも。
ただ、無症候性のDVTも多く血栓があるからと言って必ずしも症状がでるわけではありません。
例えば、静脈の内腔を塞ぐようにがっちりくっついている血栓であれば、そこから末梢側の血流が停滞するため腫脹や疼痛など症状として現れます。
逆に静脈内に浮いているような浮遊血栓は、静脈の血流は保てているため症状がでないことも多くあります。
逆にぷかぷか浮いているような血栓だからこそ遊離しやすく、肺塞栓症を起こすリスクが高くなるんだ。
DVTの好発部位
好発部位は下肢の静脈が大多数であり、右よりも左下肢に多いと言われています。
部位では中枢側だと大腿静脈、末梢側だとヒラメ筋静脈が多いと言われています。
DVTの予防と看護
よく、どの手術であっても弾性ストッキングの着用をしなければならないと勘違いされやすいですが、基本的にはリスクに合わせ推奨される予防対策を行っていきます。
低リスク | 早期離床と運動 |
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中リスク | 弾性ストッキング着用か間欠的空気圧迫法 |
高リスク | 抗凝固療法もしくは間欠的空気圧迫法 |
最高リスク | 抗凝固薬と弾性ストッキングもしくは抗凝固薬と間欠的空気圧迫法 |
早期離床への援助(低リスク以上)
安静が筋ポンプの働きを低下させ血栓形成の原因になるため、医師の許可がでたら早期離床して静脈の血流を促しましょう。
ポイント
・初回歩行時は筋ポンプの働きがよくなり血流が促されるため、もし浮遊性の血栓があるようであれば飛んでしまい肺塞栓症のリスクがあるので注意。
・術後疼痛によって離床も遅延しやすいので、疼痛をコントロールすることも重要
足関節の底背屈運動(低リスク以上)
安静度がまだベッド上で離床ができないようであれば、足関節の底背屈運動を行って筋ポンプの働きを促します
足先を画像のようにパタパタしてもらいましょう。
弾性ストッキング(中リスク以上)
弾性ストッキングは圧迫する力によって静脈の還流を促し血栓ができるのを防ぎます。
そのため、患者さんの下肢に合ったサイズを使用しなくては意味がありません。足首とふくらはぎの径を測定して、適切なサイズを選択しましょう。
もし、下肢が細くて合うサイズがなければ弾性包帯を使用して圧迫します。
ポイント
・弾性ストッキングは腓骨頭を圧迫しやすいため腓骨神経麻痺には注意が必要
・MDRPUに注意
・自力で歩行ができれば中止可能。念のため医師に確認。
間欠的空気圧迫法(中リスク以上)
空気によって間欠的に圧迫することで静脈の血流を促し血栓を予防します。
間欠的空気圧迫法には種類がありますが、主にフットポンプかカーフポンプを使用することが多いです。
ポイント
・総腓骨神経麻痺やコンパートメント症候群注意
・間欠的空気圧迫法によるMDRPUに注意が必要。結構なりやすいので皮膚の観察を忘れずに。
・すでに血栓がある場合や血栓の疑いがある場合は禁忌
・歩行ができれば中止可能。念のため医師に確認。
抗凝固療法(高リスク以上)
ヘパリンやワーファリンなどを投与して血栓を予防します。
ヘパリンやワーファリンなどはAPTTやPT-INRをモニタリングしながら調整する必要があるので、最近ではモニタリングの必要性がないリクシアやエリキュースなどのDOACを使用することも増えています。
ポイント
・出血性合併症のリスク
・ヘパリンはHITのリスクらあり血小板の低下に注意。
・ワーファリンはビタミンKの摂取がダメなのでワーファリン食への変更を忘れずに。
まとめ
基本的には、どの手術においてもDVTのリスクがあるので、術前からのリスク評価とそれに合わせた予防対策が重要なポイントです。
基本は早期離床と運動
今回は私の病院で使用している周手術期VTEガイドラインをもとに解説しましたが、自施設のマニュアルがあると思うので確認してみましょう。