点滴やドレーンは抜かれるし、安静も守れないし目が離せない。
「勘弁してよ〜」
このように、看護師も絶対に避けたい合併症である術後せん妄。
私の経験から言いますと術後せん妄を100%予防することは不可能です。
しかし、術前からリスクを評価し対策を行っていけば、発症リスクを軽減したり重症化を予防することができますし、せん妄患者の対応に追われ疲弊してしまうことも避けられるはずです。
今回は…
・術後せん妄を起すリスク因子
・術後せん妄の予防対策
について解説していきたいと思います。
術後せん妄はなぜ起きるのか?
せん妄とは、脳機能の一時的な低下による意識障害と注意障害を伴う状態のこと。
1つの原因だけで起こることは少なく「準備因子」「直接因子」「誘発因子」この3つの因子が発症に関連すると言われています。
準備因子
もともと脳にダメージがある状態
高齢(70歳以上)、認知症、脳血管障害、アルコール多飲 など…
直接因子
直接的にせん妄の発症に影響のあるもの
手術、薬剤、感染症、低酸素血症、脱水、電解質異常 など…
誘発因子
せん妄の発症を加速させるもの
疼痛、ベッド安静、感覚遮断、睡眠障害、モニターやポンプなどの音、禁食、身体抑制 など…
術後は…
・手術侵襲(特に全身麻酔)による直接的な影響
・痛みに対する苦痛や不安
・安静による制限
・点滴ルート、ドレーン、モニター類などの医療機器に繋がれているので動けない
・膀胱留置カテーテルが挿入されているのでトイレにもいけないし違和感もある
・今が何時なのかもわからない
などなど、このように多くの要因によってせん妄が起きやすい状態になってしまいます。
若い人だから絶対にないとは言い切れない。
つまり、術後のせん妄を予防するためには、発症する要因を取り除くように関わることがポイントになります。
術後せん妄が起きやすい時期
せん妄は術後当日〜数日以内に発症すると言われています。
私の経験では、術後当日〜2日目くらいまでが最も多くて、対策を行わないとせん妄状態が長引いてしまいます。
時間帯は夕方〜夜間にかけて起きやすく「昼間はなんともなかったのに…」ってことが結構多いです。
せん妄の症状
「あれっ?なんか変」←めっちゃ重要
これを感じたら危ないサインです。
例えば、よくある初期症状として…
- 落ちつきがなくてソワソワしている
- 膀胱留置カテーテルが挿入されていることを何度も伝えるがトイレに行きたいと訴える
- 眠れないと不眠を訴える
などなど、言い出したらキリがないくらいですが、これが続くと…
- 家に帰ろうとして安静が守れずに歩き出してしまう
- 天井に虫がいっぱいる
- 何か見えないものを掴もうとしている
- ここは◯◯の会社ですよね?
このように、見当識障害や幻覚、妄想の症状が出現し、点滴やドレーン、膀胱留置カテーテルなどを抜いてしまったり、安静が守れず転倒・転落などの事故に繋がっていくのです。
患者さんも術後の回復が遅延してしまうけど、看護師も対応困難になって疲弊してしまうからね
術後せん妄の予防と看護
せん妄予防ケアは早期発見と予防対策が最も重要。
そのため、術前からリスク評価をしてリスクとなる要因を除去、軽減していくことがポイントとなります。
せん妄リスクの評価
まずは、せん妄ハイリスク患者であるかどうか評価します。
・70歳以上
・脳器質的障害
・認知症
・アルコール多飲
・せん妄の既往
・リスクとなる薬剤(特にベンゾジアゼピン系)
・全身麻酔の手術
準備因子に該当すようであればそれだけでハイリスクだし、全身麻酔を受ける患者さんもハイリスクになります。
リスクとなる要因の除去
考えられる直接、誘発因子に対して対策をしていきます。
身体面について
・術後疼痛
術後の疼痛評価と鎮痛剤によるコントロールを行う
・薬剤
リスクとなる薬剤を服用している場合は、術前から医師と薬剤師などと相談して、種類の変更や中止などを検討しておく
・脱水
脱水が疑われるようであれば、補正や飲水の励行を行う。
・電解質異常
電解質異常を示す症状や検査データの異常があれば、主治医に報告し補正を依頼する
環境面について
昼と夜のメリハリをつけることが大切。
・照明の調整を行う
昼間はカーテンを開けて日光を入れるようにし、夜間は豆電球などを使用し完全に暗くはしない。
モニターも可能であればスリープモードを使用したり、画面の明るさに配慮する。
ICUであれば真っ暗になることはありませんが、少しでも暗くできるように調整する。
・日付や時間がわかるようにする
時計やカレンダーを見える位置に置いておく。また、ラウンドで訪室した時に「今は何時ですよ。もう少しで朝ですね」など時間を伝えていく。
・気分が落ちつく環境をつくる
日頃から使い慣れた日用品を使用したり、家族やペットの写真などを置いておく
安全面について
事故や自傷に注意しなければならない
・ベッド周囲
ベッドの高さやストッパー、柵の位置に注意する。周囲に危険なものがあれば取り除く。
・チューブ類の自己抜去予防
点滴ラインやモニター、ドレーンなどは視界に入らないよう、手が届かないように整理する。
例えば、点滴の刺入部は包帯で巻き、ラインは襟から出すなど、見えないよう手元に触れないように配慮する。
可能であれば、点滴を日中のみにできるか検討
・身体抑制は極力避ける
せん妄のリスクが高い(特に認知症がある)と事故を予防するために身体抑制と考えてしまいがちですが、逆にせん妄を発症を加速させたり、重症化する恐れもある
できる限り、身体拘束をしないように介入できることが理想。
やむを得ず一時的に行う場合もありますが、関節拘縮や褥瘡などの身体的影響。自尊感情の低下、不安や怒りなどの精神的な影響が起こることを知っておく必要がある。