周手術期の看護をするなら必ず知っておきたいPONV(ポンブ)
麻酔科の先生がPONVありとカルテに記載していたんですが、これって何ですか?
術後の患者さんの約30%に起きると言われるくらい多くみられる合併症なんだ。
この記事では
・PONVはなぜおきるのか?
・PONVを起こしやすい人は?
・予防策はどうするのか?
について解説していきたいと思います。
Contents
PONVってなぜ起きるの?
PONVを起こすメカニズムには、5つの神経伝達物質受容体が発症に関与していると言われています。
- ムスカリンM1
- ドパミンD2
- ヒスタミンH1
- 5-ヒドロトリプタミン3(5-HT3)
- サブスタンスP
これらの神経伝達物質が活性化され嘔吐中枢を刺激することで悪心や嘔吐が誘発されるということ。ただ、どの経路がPONVを起こす原因かは明らかになっていなく複雑に絡み合っていると言われています。
そして、この受容体に対する制吐薬を予防的に投与することでPONVを抑える効果があるとされています。
PONVを起こしやすい人
PONVを起こしやすい人の特徴は3つの因子に分類されます
- 患者関連の因子
- 手術関連の因子
- 麻酔関連の因子
そして、これらの因子が複数関与することでPONVを発症すると言われています。
患者に関する因子
- 女性
- 非喫煙者
- PONVの既往、乗り物酔いしやすい人
- 若年者
実は…男性より女性の方が2〜3倍もリスクが高いと言われています。(思春期前は男女に差はなし)
乗り物酔いに関してはなんとなくわかるけど、喫煙に関してはビックリ。ニコチンによるPONVの抑制効果が指摘されているみたいですが、だからと言って喫煙する方が他の合併症のリスクが高いため禁煙は絶対にするべきでしょうね。
手術に関する因子
- 手術時間
- 腹腔鏡手術
- 胆のう摘出術
- 婦人科系手術
- 耳鼻科系手術
手術時間が長くなればなるほどリスクが高く、小児であれば30分を超えるとリスクが高くなると言われています。
手術時間もそうだけど、術式にも特徴があるので覚えておいたほうがいいでしょう。
麻酔に関する因子
- 全身麻酔
- 揮発性麻酔薬
- 亜酸化窒素
- 術後にオピオイドの使用
揮発性麻酔薬とはイソフルランやセボフルランなどの吸入麻酔薬で、PONVとの関連性が高いと言われています。
そのため、PONVリスクの高い患者さんの全身麻酔導入時は吸入麻酔を使用せずにTIVA(全静脈麻酔)を行うことが推奨されています。
また、術後にオピオイドを持続的に投与する
IV-PCAなどの場合、オピオイドの副作用で悪心嘔吐があるのでリスクが高いのは納得できます
ここまでをまとめると…
40歳女性
喫煙歴なし
全身麻酔にて腹腔鏡下胆のう摘出術
術後はIV-PCAにてフェンタニル投与予定
このような例であれば、術後にPONVを発症する可能性がかなり高いってことです。
PONVのリスク評価
成人のPONVリスクを評価するツールとしてApfel(アフェルスコア)というものがあります。
リスク因子 | ポイント |
女性 | 1点 |
非喫煙者 | 1点 |
PONVの既往・乗り物酔いしやすい | 1点 |
術後オピオイド使用 | 1点 |
当てはまる数が多いほど術後にPONVを起こすリスクが高くなる
0個=10% 1個=20% 2個=40% 3個=60% 4個=80%
0~1個は低リスク群
2~3個は中リスク群
4個は高リスク群
小児の場合の評価ツールはEberhartスコア。
リスク因子 | ポイント |
手術時間30分以上 | 1点 |
3歳以上 | 1点 |
斜視手術 | 1点 |
本人または家族にPONVの既往 | 1点 |
小児の場合は悪心の評価が難しいため術後嘔吐(POV)のリスク評価となっています。
0個=9% 1個=10% 2個=30% 3個=55% 4個=70%
PONVの対策はどうするの?
できるなら…
- 全身麻酔ではなく区域麻酔(硬膜外麻酔)
- 吸入麻酔を使わずにプロポフォールによる静脈麻酔(TIVA)
- 術後のオピオイド量を減らしてアセトアミノフェンやNSAIDsを併用
そして…
- 制吐薬を投与して予防する
これらが予防対策になります。
PONVに使用する制吐薬
PONVの発症に関与する神経伝達物質受容体に対する制吐薬を投与する。
メトクロプラミド(プリンペラン)
ドーパミン受容体拮抗薬。
看護師が1番投与することが多いであろう制吐薬。個人的な感想ですけど、PONV時に使用してもあまり効果が期待できない印象です。
ヒドロキシジン(アタラックスP)
抗ヒスタミン薬。
私の病院では予防策として使用していませんが、麻酔科医の話によるとPCAポンプの中にオピオイドとアタラックスPを混ぜて使用するDrもいるそうです。
ドロペリドール(ドロレプタン)
ドパミンD₂受容体拮抗薬。
手術終了時にIVしたりして使用しますが、私の病院ではPCAポンプの中に混注してフェンタニルと共に持続的に投与しています。
パーキンソンや心電図でQT延長がある場合は使用しない。
オンダンセトロン(ゾフラン)グラニセトロン(カイトリル)
5-HT3受容体拮抗薬。
本来はケモに伴う悪心嘔吐に使用する制吐薬であるが、2021年9月にPONVに対しても保険適応となった。私の病院でも、PONVの予防としてリスク症例のみ手術終了時にカイトリルをIVしています。
効果があったかどうかは統計をとっていないので不明ですが、PONVの発症はここ最近はほとんどありませんね。
私の病院でのPONV予防に対する制吐薬
・手術終了時にカイトリルをIV
・IV-PCA内にドロレプタンを混注
・術後にPONV発症時は
①メトクロプラミドをIV
②初回投与から6時間空いていればカイトリルを再度投与
③それでも軽快しなければIV-PCAを減量or中止
PONVの看護のポイント
PONVは術後の疼痛に匹敵するくらい辛い症状と言われています。
PONVの発症によって早期に経口を開始しても食べることができませんし、早期離床の妨げにもなってしまいます。嘔吐が続くことで脱水になる可能性もあり、十分な補液が必要にもなります。
また、特に高齢であれば嘔吐による誤嚥性肺炎には十分に気をつけなければなりません。
それ以外にも、術後出血や創部離開のリスクがあることも念頭においておく必要があります。
私の経験上、たいてい翌日には軽快することが多い印象ですが、このような弊害を起こさないためにも術前からのリスク評価して主治医、麻酔科医、手術室看護師と情報を共有し事前に対策を確認しておくことが重要です。
術後に悪心や嘔吐が出現してメトクロプラミドをIVしたけど症状が軽快しない場合、また同じ薬剤を使用してもあまり効果がないし、次はどうすればいいのか事前に確認しておけばタイムリーに対応することができますからね。
参考文献: