周手術期の看護をするうえで必ず知っておきたい手術侵襲による生体反応。
ただ、術後の観察をするうえで基本となる部分ですので、手術によって患者さんの体がどのように反応し変化するのかを理解していきましょう。
人間の体ってよく作られているな〜と思いますよ。
非常に複雑な部分ですが、できるだけわかりやすく簡単にまとめてみましたので解説していきたいと思います。
Contents
手術侵襲と生体反応について
人間は外敵な刺激(侵襲)をうけても、体内を一定の状態を保とうとするホメオスタシスという働きがあります。
例えば「暑い時には汗をかいて体温を下げ」「寒い時には震えることで体温を上げる」ようにすることで、体温を一定に保とうとします。
しかし、手術となると体には身体的にも精神的にも様々な侵襲が加わります。
とにかく大ダメージなわけです。
この危機的な状況から守るために、神経や内分泌、免疫など私達の体の中で様々な反応が起きます。
これが生体反応
そして、手術侵襲が大きいほど生体反応も大きくなりバイタルサインの変化が大きくなります
術後の生体反応はこれだけ覚えよう
術後は血圧が上昇し頻脈になる
手術による出血やサードスペースへの水分の移行、不感蒸泄によって体内の水分量が減少するため、循環血漿量が減少します。また、麻酔による血管拡張作用からも血圧は低下しやすくなっています。
循環血液量が減少すると腎不全やショックなど危機的な状態になってしまうため、私達の体の中では循環血液量を維持しようと、このような生体反応が起きます。
末梢血管を収縮させて血圧を上げよう
これには、副腎髄質からでるノルアドレナリンと腎臓からでるレニンによって分泌されるアンジオテンシンⅡが関わっています。
心臓の収縮力や心拍数を増加しよう
これには、副腎髄質から分泌されるアドレナリンが関わっています。
つまり、これらの働きによって術後は基本的に血圧は上昇し頻脈となります。
術後は尿量が減少する
循環血漿量を維持するためには、血圧の上昇や心拍出量を増大させるだけでなく、水分を出さないように尿量も減らす反応が起きます。
これにはアルドステロンとバソプレシンのホルモンが関わってきます。
アルドステロン
アルドステロンが分泌されると、本来は腎臓にある糸球体で捨てられるナトリウムが再吸収されます。ナトリウムは水分を引き連れてくる性質があるため、尿量が減る代わりに循環血漿量は増えます。
また、アルドステロンはカリウムの排泄を促進します。
バソプレシン
バソプレシンは集合管に作用して水分の再吸収を促します。水分を尿として出さずに血液中に戻してくれるので、尿量が減り循環血漿量は増えます。
このように、循環血漿量を維持するために尿を減らして血管の中に水分を戻そうとする生体反応が起きます。
つまり、術後は尿量が減少するのです。
関連記事術後は発熱する
術後は、手術による組織の破壊などから免疫が活性化されサイトカインが産生されます。
*サイトカインとは、免疫系の細胞から分泌されるタンパク質のこと。
体に侵襲が加わり組織が損傷すると、マクロファージが活性化してサイトカインを産生します。
サイトカインは「大変だ~◯◯部分が損傷したぞ」と全身に情報を伝える役割を担っており、それによって体温調節中枢が熱を上げて白血球などの免疫が働きやすい環境を作り、組織を修復するために炎症が起きるのです。
つまり、術後は熱は上昇し、白血球の増加、CRPの合成が行われます。
これは悪い発熱ではく、体が元の状態に戻ろうとするために起きるので良い発熱とも呼ばれています。
関連記事術後は血糖値が上昇する
侵襲が加わった体を細胞たちに頑張って修復してもらうためには多くのエネルギーが必要になります。
私たち人間にとってエネルギー源ってなんですか?そうです。ブドウ糖です。
体内に蓄えてあるグリコーゲンを分解したり、足らなくなれば糖を作りだそうとします。
肝臓のグリコーゲンを分解
アドレナリンや膵臓から分泌されるグルカゴンが肝臓のグリコーゲンをグルコースに分解して血糖値を上昇させます。
また、グルカゴンはインスリンの作用も抑制するため、血糖値は更に上昇します。
しかし、肝臓に貯蔵しているグリコーゲンの在庫には限りがありますので、枯渇してしまうと次は副腎皮質よりコルチゾールを分泌し糖を作り出そうとします。
コルチゾールの作用による糖新生
タンパク質を分解(蛋白異化)してできたアミノ酸を糖に変換しエネルギーに変える
脂肪を分解を分解してできたグリセオールを糖に変換しエネルギーに変える
このような反応が起きます。
そのため、術後は一過性に血糖値が上昇しますし、タンパク質も減少するためTPやアルブミンが低下します。
術後の生体反応をまとめると…
侵襲を受けた体は恒常性を保とうとこのように反応します。
尿量が少なくなるのも発熱するのも正常な反応なんですね。
ただし、必ずしも術後はこのように経過をするのかと言えば答えはNOです。
例えば、侵襲が大きな手術(私の経験上、穿孔性腹膜炎などで開腹手術をした場合やPD)などは、生体反応を行っても血圧が保てずに、ノルアドレナリン(NAD)やドパミン(DOA)などの薬剤を使用することも多くあります。サードスペースへの水分移行量も多くなるので本当に尿がでません。
また、術後出血があればもちろん血圧は低下しますし、硬膜外麻酔から麻薬性の鎮痛薬を投与していても血圧は下がりやすいです。
つまり、基本的には説明してきた生体反応をし恒常性を保とうとするが、手術の内容や出血量、手術時間、高齢、基礎疾患の有無など侵襲の大きさによってバイタルサインの変化も大きくなるということです。
生体反応とムーアの分類
手術による生体反応を4つの過程に示したムーアの分類というものがあります。術後の回復過程がわかりやすいので参考にどうぞ。
第Ⅰ相 傷害期(術後2〜4日間)
手術によるダメージ(侵襲)に対して、神経や内分泌、免疫などがバランスをとり恒常性(ホメオスタシス)を保とうとする時期。
- 尿量を減少させて循環動態を維持
- 発熱して免疫を活性化
- 血糖値を上げ、タンパク質や脂肪を分解してエネルギーに変える
様々な生体反応を起こします。それに、術後の疼痛や気力の低下によって、患者さんは身体的にも精神的にも辛い時期ということですね。
第Ⅱ相 転換期(術後3〜5日目に始まり、1〜3日間続く)
障害期で起きた生体反応が落ちつき、通常の身体状態に向かっていく時期。
- 神経、内分泌反応が収まり循環動態は安定してくる
- 熱が下がり、炎症反応も落ちついてくる
- サードスペースに貯留していた水が血管に戻ってくるため尿量が増える
- 疼痛も軽減し活動量が増える
熱も下がり疼痛も軽減してくるため、身体的・精神的にも楽になり活動量も徐々に増えてくるが、体力回復はまだまだ不十分な時期。
第Ⅲ相 同化期(術後1〜数週間)
この時期になると、体の中のバランスはほとんど正常化して、タンパク質の合成により筋力量も回復傾向になっていきます。
- バイタルサインは安定
- 食欲も増加
- 疼痛も消失
- 創修復が促進
体力も徐々に回復してくるので、この時期に退院になる場合が多いです。
第Ⅳ相 脂肪蓄積期(第3相から数ヶ月)
脂肪合成が盛んに行われる時期であり、異化期でエネルギーを使うために分解されていたものが、今度は蓄えに回せるようになります。
- 体力も回復
- 社会復帰
まとめ
今起きていることが正常なのか?異常なのか?それを理解することが術後の看護をするうえで大切なので、しっかり覚えていきましょう。